
こんばんは、ノエル・ギャラードです。
今夜紹介するのは和田竜
小太郎の左腕です。
本作は2009年11月に小学館から刊行された和田竜の三作目となる長編小説です。戦国期における西国の国人領主達の領土争いを国人領主、戸沢利高の家臣、林半右衛門の視点から描いており、序盤は林半右衛門と児玉家の武将、花房喜兵衛の力比べ、といった内容でエンターテイメント性の高い時代小説といった感じの作品なのですが、そこは「のぼうの城」で鮮烈なデビューをした和田竜のことですから、ただの時代小説で終わるわけがありません。
中盤からは、国人領主達の領土争いが、特異な火縄銃の才能を持つ十一歳の少年、小太郎の出現によってそれまで児玉家優勢であった戦が一転して戸沢家の優勢に変わるというめまぐるしい展開となっていくのですが、この小太郎がまさに戦国時代の狙撃手、それも「最強の狙撃手」と言っても良いくらいの凄まじい腕を見せてくれます。
しかし、この小太郎の腕前を語る前に、戦国時代に狙撃手が存在しえたのか?という疑問もあるのですが、戦国時代の狙撃といえば、杉谷善住坊による織田信長狙撃が有名です(結果は失敗)しかし当時の火縄銃には旋条(ライフリング)は施されておらず、鋳物で出来た銃弾を火薬を詰めた銃身に押し込み、火縄で着火すること火薬の爆発によるガス圧によって弾丸を押し出す、という単純な仕組みであって、その命中率は現代の狙撃銃と比べると全くお粗末なものだったはずです。
まあ小説だから、と言ってしまうと実も蓋も無いのですが時代小説に少年狙撃手というギミックを持ち込み、しかも林半右衛門、花房喜兵衛といった骨太の武士を配置することでギミックに頼らずとも、正統派な時代小説としても楽しめてしまうあたりはやはり和田竜作品らしさが存分に発揮されていると言えます。
この小太郎は戦国時代における鉄砲界のエリート集団「雑賀」の一族であることが作中で語られるのですが、ゲーム、「信長の野望」や宮下 英樹の「センゴク」等での活躍を見るにつけ、「雑賀」の名前は当時も相当だったことが伺えますね。
この小太郎をめぐる悲しい争いは実際に読んでいただくとして、時代小説も、スナイパー物もどちらも好きだと言う方にはピンポイントにお勧めできる一冊ですよ。
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